③ 患者さんを対象とした臨床試験での仕事内容。

新薬コラム

                            医薬コンサルティング, 新薬開発, 臨床試験, 承認取得,

 今回は、患者さんを対象として臨床試験における仕事内容に関して、以下の3点について、お話します。
① 患者さんを対象とした治験において発生する業務の内容。
② 治験で得られるデータや記録類の完全性を担保するために講ずべき要件。
③ データや記録類の完全性は、どのような場面で求められ、何故重要か。

 今回は、製薬会社の臨床部門のCRA(Clinical Research Associate : 臨床開発モニター)や臨床試験の受託会社のCRAが、治験(臨床試験)を開始してから、終了する迄の間で、治験参加施設の医師(責任医師、分担医師)、治験事務局、薬剤部、CRC(Clinical Research Coordinator : 治験コーディネーター)、検査部門等との間で、治験期間中、仕事そのものに関して、どのようなやり取りをしているか、概略を振り返ると共に、大事なポイントを確認しておきたい。 
通常、患者さんを対象とした臨床第Ⅱ相試験、臨床第Ⅲ相試験を実施するには、以下の図に示すような業務が発生する。
1)初めに治験実施計画書、治験薬概要書、試験成績調査表、患者さんの同意書及び同意説明文書等の治験に関する資料を作成する。
2)次に、治験の実施を依頼する病院の選出、代表責任医師の選出など治験を実施するための体制づくりを行う。
3)体制が出来上がったら、PMDAへ実施する治験の治験届を提出して問題がなければ、治験を実施する全国の病院(30~100施設位)の院長、責任医師、分担医師、薬剤部、検査部、看護師、事務局、CRC等に対して治験の依頼を行う。
4)各病院内で治験を行う体制を整備した上で、治験の説明会を全国規模ないしは病院毎に実施する。また、同時に使用する治験薬を各病院に配布する。
5)次に治験に参加する患者さんの募集を行って、同意が得られた方を対象に新薬候補品等を投与して、治験を実施する。
6)3か月から1年位の投与期間の間に得られた、新薬候補品の効果(例えば、血圧値の低下の程度)、安全性(副作用の発現の有無)、臨床検査値等のデータを試験成績調査表で全国の病院から収集する。
7)集められたデータは、製薬会社等の統計解析分門で集計、解析し、治験成績の結果が出る。
8)得られた結果を基に報告書(治験総括報告書)を作成して、1つの試験が完了する。

尚、図の中に出ている、SMO、CROとは以下の事を意味してます。
・SMO(治験施設支援機関、Site Management Organizationの略)とは治験を実施する病院やクリニックと契約し、治験の仕事を支援する企業のことを言います。治験に関わる医師や看護師、事務局や製薬会社の仕事を支援することにより、治験の品質・スピード向上の支援をしています。業務を担当する人はCRC(Clinical Research Coordinator)と呼ばれています(比較的大きな病院では、病院で雇用されたCRCがいる場合があります)。
・CRO(医薬品開発受託機関、Contract Research Organizationの略)は製薬会社からの委託を受け、主に医薬品開発における臨床試験や製造販売後調査及び安全性情報管理を行う企業です。業務を担当するする人はCRA(Clinical Research Associate)と呼ばれています(製薬会社内でモニターの仕事をする方もCRAと呼ばれています)。

 以上のように、患者さんを対象にした1つの治験を行うには、多岐にわたる業務があり、いずれの業務も新規候補品の承認申請に係る成績を得る目的で行うことから、非常に重要な意味を持っています。 
この中でも特に、製薬業界でも重要視されているのはデータインテグリティ(DI:データの完全性)に関するもので、1999年4月にFDAが発出したガイダンスの序文で示された「ALCOA」の概念と共に、一般化してきたものである。「ALCOAの原則」とは、下記の表にあるようにAttributable(帰属性)、Legible(判読性)、Contemporaneous(同時性)、Original(原本性)、Accurate(正確性)の頭文字を取ったものである。さらに、2010年にはEMA(欧州医薬品庁)より、「ALCOAの原則」にEECA要件が追加され、ALCOA-CCEA原則:ALCOA+(プラス)として一般化されている。CCEAとは、C:Complete(完全性)、C : Consistent(一貫性)、E : Enduring(永続性)、A : Available(可用性)の頭文字をからきている。例示として、ALCOAの原則のそれぞれの項目の意味を示しているが、いずれにしろ、製薬業界においては、データ、記録類の完全性を証明するために、FDAやEMAが提示する「ALCOA原則」、「CCEA要件」に則ったデータ、記録類であることが求められている。

ALCOAアルコア原則

 新規候補品が医薬品として承認を取得するためには、申請後に実施されるGCP査察(これは臨床試験の場合で、その他の試験項目においても、申請資料に関し同様な査察が行われる)において、会社が保有する各種のデータ、記録、書類等と医療機関等が保有する各種のデータ、記録、書類等の整合性がチェックされる。この段階で、両者の間でデータや記録類との間に齟齬が見つかった場合には、最悪、申請の取り下げ、生データの再確認、再統計解析、申請資料の修正、再申請という大きな時間的な遅れが生じ、新医薬品の患者さんへの提供が遅れると共に、会社側でも、承認の遅れによる売上げへの影響が生じることになる。
このようなデータや記録類の完全性を担保するのは、治験に参加する全てのスタッフに係わる事である。会社サイドが理解しやすい資料(治験計画書、同意説明文書等)を作成しているか、治験の内容をすべての関係者が同じように理解できるように理解させているか、医師に対し副作用の判定の仕方、数え方等について統一した訓練を行っているか、病院サイドがデータや記録を収集するに当り、正確に理解してもらっているか、それを常時確認しているか、個々のCRAに医療機関における原データに対する直接閲覧の技術を具体的にどのようにトレーニングしているか、またRisk-based monitoringで実施される治験において、各施設のモニタリング回数を、どのような根拠、理論に基づいて設定しているか等、治験で発生するすべての業務において、間違いのないデータや記録を集めることが、最も重要な作業であることを、常に頭に入れておく必要がある。

                              医薬コンサルティング, 新薬開発, 臨床試験, 承認取得,