② 健常人を対象とした試験のボランティアになった経験

新薬コラム

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 今回は、健常成人男子を対象とした臨床第Ⅰ相試験について、以下の4点について、お話します。    
① 数十年前に実施されていた臨床第Ⅰ相試験の状況。
② GCPの基準が出来て、試験の参加者が変わっていった。
③ 臨床第Ⅰ相試験の試験内容の概略。
④ 臨床第Ⅰ相試験の現状と大事なポイント。

    医薬品の開発で、ヒトを対象とした最初の試験は、通常健常成人男子を対象とした臨床第Ⅰ相試験になりますが、30年以上前には、製薬会社の社員がボランティアとなって試験を実施していました。だいたいは1回の採血で、10000円位のボランティア費が出たので、単回投与試験で10回以上、反復投与試験で20回以上の採血がある事から副業的な感覚で、どこの会社も多くの社員が試験に参加して、副収入を得ていた時代がありました。
 現在は、GCPの第44条(被検者となるべき者の選定)の項で、「社会的に弱い立場にある者a)」については、治験に参加しない事により不当な不利益を受けるおそれがあるものを選定する場合には、当事者の同意が自発的に行われるよう十分な配慮を行う事になってからは、製薬会社の社員が、臨床第Ⅰ相試験のボランティアになる事はなくなりました。   

a) 「社会的に弱い立場にある者」とは、例えば階層構造を有する構成員としての、医・歯学生、薬学生、看護学生、病院、検査機関の下位の職員、製薬企業従業員、被拘禁者、不治の病に罹患している患者、養護施設収容者、失業者、貧困者、ホームレス、難民、未成年者等が挙げられています。

 通常の臨床第Ⅰ相試験の内容としては、新薬候補品を1回投与する単回投与試験と、1~2週間連続して投与する反復投与試験を行います。単回投与試験では新薬候補品の5~6用量を選び、少量から安全性(副作用や臨床検査値)を確認しながら徐々に用量を増やして、十分耐えられる程度(忍容性)を観察して、予見される副作用の種類と程度を検討します。次に反復投与試験として、3用量位を選定して、低い用量から安全性(可能な場合は有効性の項目も測定)を確認しながら用量を増やして検討していきます。尚、単回、反復投与試験とも、1日数回採血して、新薬候補品の血中濃度を測定して、ヒトにおける薬物動態を検討します。これらの結果を基に、次の段階として、患者さんを対象とした臨床第Ⅱ相試験で用いる量を数用量選択することになります。

 以前は、外国で臨床試験が実施され、既に発売されているものを、日本に導入して、開発するか、類似した化合物を合成して日本で開発するケースが多かったので、かなり新薬候補品に関するヒトに対する安全性に関する所見が得られていたので、臨床第Ⅰ相試験は、比較的安全に実施されていたように思います。但し、以前ボランティアとして参加した試験でも、ある臓器の色が黄色になったとか、部屋の隅にじっとうずくまってしまう症状がでた事例もありました。また、2016年には、フランスで実施された臨床第Ⅰ相試験で、脂肪酸アミド加水分解酵素阻害剤を反復投与された被験者のうち1名が死亡していますし(レンヌ事件:投与量の設定ミス?)、2019年には、日本での臨床第Ⅰ相試験で治験薬の投与終了後5日目に、被検者1名が自死する事例が発生しています(被験薬の離脱期において精神神経症状が出現?)。最近は、国際共同開発が盛んに行われており、同時開発、同時申請を目指すとか、日本が世界に先駆けて新薬を開発する流れが進んでおり、以前と比べ、ヒトに対する安全性のデータがない中で初めてヒトに新薬候補品を投与する臨床第Ⅰ相試験が行われることが多くなります。従って、基礎試験の成績からからヒトにおける安全性への予測性を、より慎重に評価するとともに、ヒトを用いた臨床第Ⅰ相試験をより安全に実施することが出来るような試験計画書の作成、手順、監視体制を整備することを基本的な事項として準備することを、第1に考えることを常に忘れないようにしたい。

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