④ 医薬品も市場から回収することがよくある

新薬コラム

                             医薬コンサルティング, 新薬開発, 臨床試験, 承認取得,

医薬品は、通常ヒトの身体に投与して、病気を治療するものであるから、清潔な環境で、100%間違いのないものを製造して、患者さんに提供することが義務づけられているはずです。しかしながら、現実には、種々の理由により、その薬剤の安全性、有効性、品質が確保できない状況が生じ、市場から回収する場合が生じているのが現実です。

厚生労働省の通知によれば、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品(以下「医薬品・医療機器等」という。)に関し、何らかの不良又は不具合が生じた場合には、医薬品・医療機器等による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため、これらの不良医薬品・医療機器等の自主的な回収を行うことになっています。また、回収に着手した旨及び回収の状況を厚生労働大臣へ報告しなければならないとされています。

回収に当たっては、不良医薬品・医療機器等の使用によりもたらされる健康への危険性の程度により、以下のようなクラス分類が定義されています。一般に、クラスⅡ以上が、回収の対象になると考えられています。

分類 定義
クラスⅠクラスⅠとは、その製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る状況をいう。
クラスⅡクラスⅡとは、その製品の使用等が、一時的な若しくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性がある状況又はその製品の使用等による重篤な健康被害のおそれはまず考えられない状況をいう。
クラスⅢクラスⅢとは、その製品の使用等が、健康被害の原因となるとはまず考えられない状況をいう。

 さらには、医薬品・医療機器等の製造販売業者等が、医薬品・医療機器等の回収に着手した場合、速やかにインターネット掲載用資料を提出し、PMDAのサイトに載せる事になっています。提出する資料に記載する内容は、下記に内容となります。

 1.資料作成年月日
 2.医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の別
 3.クラスⅠ・クラスⅡ・クラスⅢの別
 4.一般的名称及び販売名
 5.対象ロット、数量及び出荷時期
 6.製造販売業者等名称
 7.回収理由
 8.危惧される具体的な健康被害
 9.回収開始年月日
 10.効能・効果又は用途等
 11.その他
 12.担当者及び連絡先

 尚、医薬品・医療機器等の回収に関する詳しい内容は、厚生労働省から「医薬品・医療機器等の回収について」という通知が出ていますので、ご参照願います。

        (薬 食 発 1 1 2 1 第 1 0 号 平 成 26 年 11 月 21 日)

下記に、2020年から2022年における、医薬品の回収件数を載せています。2020年から2022年にかけて、クラスⅠの回収が増加している詳しい理由は調査していませんが、殆どは血液製剤の回収でした。ただ、2020年には、イトコナゾール(経口真菌剤のイトコナゾールに睡眠導入剤のリルマザホンが混入していた事件)、メトホルミン・メトグルコ(これらの糖尿病治療剤に、管理指標を超える発がん性物質「N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)」が含まれていた:報告は3社)もクラスⅠとしての回収対象になっていました。

 また、医療用医薬品に関するクラスⅡの主な回収原因としては、従来は異物の混入(金属片、ガラス片、虫、毛髪、黒色物等)、品質不具合(溶出試験等、各種規格試験の設定値からの逸脱、結晶析出、形状変化等)、表示ミス(添付文書の記載ミス、製造番号・ロット番号の未記載等)、その他(容器の不具合、シール非表示、添付文書の入れ違い等)等が報告され、回収が行われていました。

               医薬品の回収報告数(回収終了を含む)

クラス分類2020年2021年 2022年*
クラスⅠ7251455
クラスⅡ256218123
クラスⅢ9278
*2022年は12月23日迄のデータ

                 PMDAの回収情報(医薬品)

 これらの回収事例は、各製薬会社の工場で、100%間違いないものを製造する目標をたて、法令に従い行ってきたものの、全体の製造量から比べれば、ほんの数%の発生率であることから、ヒトが関わる事により生じるケアレスミスによるものと予測していました。しかしながら、ここ数年の主に後発医薬品の一部の製薬会社における医薬品製造に関する不祥事が明るみに出て、10社近くが製造販売業ないしは製造業の業務停止が行われました。例えば、医薬品の承認許可証からの逸脱が日常的に行われていたり、医薬品製造基準(GMP省令)に従っていなかったり、規格試験等の試験結果を捏造して規格値に合格しているような不正等が長年に渡り、行われてきたことが判明しました。

 このような不祥事は、ヒトに係わるケアレスミスによるものではなく、意図的な悪意のある行為と考えられます。このような意図的な行為は、決して氷山の一角はなく、製薬業界全体にベースとして何らかの形であり得ると思われます。結果として、回収にあるような事象が発現し、善良な企業は回収を行い報告していますが、そうでない企業もないとは言えないように思われます。
 いずれにしろ、医薬品は、通常ヒトの身体に投与して、病気を治療するものであるから、清潔な環境で、100%間違いのないものを製造するのが、製薬企業の義務ある事をこれからも忘れないようにしてほしいと思います。

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