1)医薬品等の緊急承認制度の施行

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   通常、医療用医薬品を開発するには、動物試験から始めて(特に安全性を慎重に確認し)、次いで、ヒトにおける臨床第Ⅰ相試験(健常人の試験)、臨床第Ⅱ相試験(用法・用量の設定)、臨床第Ⅲ相試験(既存薬との比較)を行って、薬剤の有効性、安全性、品質を慎重に確認した上で、厚生労働省に申請し、1年位の審査期間を経て、初めて承認を得て、発売に至っています(これ迄は、通常、候補物質が見つかってから承認取得迄に10年間位は掛かると言われてきました)。
 ここ数年に渡る新型コロナウイルスの流行に伴い、コロナワクチン、並びにコロナ治療薬(経口剤等)の開発・承認を見ていると、候補品が見つかってから、実際にヒトに使用される迄の期間が、極めて短くなっています。これは、今回の新型コロナウイルスがパンディミック(感染症や伝染病が世界的に大流行する状態)であることから、緊急措置として、通常の手続きを簡略化し、パンディミックを抑え込むために、国内では「特例承認(緊急時に外国において販売等が認められている医薬品等に承認を与える制度)」を用い、ヒトに使用しているからです。パンディミックを乗り越えるためのリスク・ベネフィットを考えると、他に選択肢はなかったと考えられます。
   今般の新型コロナワクチンに対する米国の対応は、大規模な検証的臨床試験結果を踏まえ、使用可能な期間に制限を設けた「緊急使用許可制度(EUA : Emergency Use Authorization)」を用いて使用を開始し、後日承認審査を受ける制度を用いています。一方、国内のこれ迄の医薬品の承認制度は、通常承認、条件付き承認(希少疾病用医薬品等の場合)、特例承認等がありますが、米国、EUのような緊急時の医薬品等の承認制度がなかったことから、令和4年5月2日に、薬機法の一部改正が行われ、緊急時の薬事承認制度が施行されました。
   改正の概要をみると、適用の対象(ワクチン、治療薬だけでなく、医薬品等全般)、発動の要件(従来の特例承認と同様)、運用の基準(安全性は従来と同等の水準で確認するが、有効性は入手可能な成績から、推定して承認可能。具体的には臨床第Ⅱ相試験で有効性が示されれば、臨床第Ⅲ相試験なしで承認可能)、承認の期限・条件(米国のEUAのように承認期限を設け、期限内に改めて有効性等を確認)、その他に市販後の安全対策、迅速化のための特例措置が設けられています。
 以上のように、国内における医薬品の緊急承認制度が法制化されたことにより、例えばコロナ感染者の後遺症の治療薬、あるいはパンディミックに未だ至らない新しいウイルス疾患が発症し始めた時は、定義から考えると緊急時の薬事承認の対象になるように思われます。しかしながら、緊急時の対応が整備されても、現在のように外国の医薬品等の開発、承認に依存する部分が多い日本の状況下では、海外の動向に大きく影響を受け、今回施行される緊急時の対応が期待したものにならない事が想定されることから、国内における新しい医薬品の開発体制の整備がさらに強化されることが期待されていると考えます。

(参考資料)
・令和4年9月14日 医薬品の緊急承認制度 (厚生労働省のサイト)
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000989610.pdf

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